8.K出版の話──続き
オフィスは明るく静かでいつもCDの音楽がかかっていました。
近くには富岡美術館があり、角を曲がると川崎まみさんのフラワーデザインのビルが建っていて、いつも朝早く息子さんが箒で道を掃いていました。
K出版の上の階にはホンダの櫻井レーシングチームの洒落たオフィスがありました。
時々若い従業員の感じのよい笑顔にエレベーターで出会いました。
やっと東京の暮らしにも慣れてきたころでした。
「マヤンオラクル」の占いがセミナーで取り上げられ、2週間に1回須山さんが会社に来ることになりました。
その頃私は書店営業とセミナーの世話のほかに、3ヵ月に一度会社が読者に無料配布するための季刊紙の文章なども書くようになりました。
☆書店営業
書店営業は体力が要ります。結構歩きます。
それでも仕事はそんなに難しくありません。
出版目録をもって書店に行き営業担当の人に会い、名刺を差し出すと相手の人も名刺をくれます。
「今度の新刊です。内容が斬新ですし、シンプルに宇宙の法則が書いてあります。」とその本の特徴を述べます。
「そうねえ、5冊でもいい?」。
担当の決定で番線に「5」と書き判を押してくれます。
都内の書店は先輩の片山さんが回ります。
私は神奈川や郊外の書店を回って本の注文をとりました。
10時に出社して出かけます。本屋さんを五軒位回ると夕方近くなります。本屋さんにお客が増える時間帯は店員さんに話しかける訳には行きません。大体食事のときもはずすので、一日に回れるのが5~6軒です。
たまに本をすすめてそれが売れたりすると、店員さんは名前を覚えてくれて機嫌よく応対してくれます。
書店でヒットする本は並べておかれます。「平積み」になるといいます。「差し」は本棚に本が従来の立て方がしてある場合のことを言います。