2.東京での仕事

ディズニーの英語教材を販売するのが私の仕事でした。
電話は大切な商売道具でした。毎日マネジャーの山本さんから成績ランクのファックスが送られてきました。
本社は池袋の五丁目のビルでした。私たちはチームを組んでいて同僚には、山本マネジャーを先頭に川端さん、細田さん、安田さん、そして横浜の3人の人たちでした。1年間は本当に頑張りました。
スチュワーデスの持つようなキャリーのついたバックを引っ張って都内から神奈川県を営業して歩きました。

引っ越した3月にはもう、仕事に出かけていました。
12月の22日に東京に引っ越してからすぐに研修が始まりました。グループは11人でした。
週に3回位荷物を引っ張ってリーダーのところに出かけ、デモンストレーションの練習をします。仲間同士で講評し合い本番に備えて営業の練習を重ねていました。

重い教材をキャリーにのせて満員電車に乗る技術も体得しました。
時々、とても怖い顔で嫌がられたりしました。都会の雑踏を歩く技術は五感を使わないと無理でした。田舎生活が長かった私は時々、若い人とぶつかったりしました。この歩く技術はまるで運転そのもの。
いきなり思い付きでからだの向きを変えようものなら人と衝突し、自分が危険な目に合います。田舎にいたころはどこに行くにも車でした。東京で足が丈夫になりました。元気に働きました。

本社は池袋五丁目にありました。副社長は、水沢あきの元夫でした。
毎日、部屋に戻るとマネジャーからのレポートが、白い大蛇のように流れ出ていました。完全に個人営業の仕事でした。
本社から週2回、アドレスカードが送られてきます。成績がよいと枚数が増えます。これは有料で一枚4千円です。

これは、「赤ちゃんの本」「ひよこクラブ」などの本の差し込みを見て、ディズニーの英語教材の説明を聞きたいお母さんたちが本社あてに郵送します。それを購入するのです。
送られて来るカードのなかで本当に購入を考えている人はごくわずかです。たいていは48万円をローンに組むことに危険を感じたりして、契約までゆくのは大変でした。中には、すぐに契約してくださることもあります。

カードが届くとまず、「ご説明に伺いたいのですが、いつがご都合よろしいでしょうか」と言って電話をかけます。
「ちょっと葉書出してみただけです」とか「説明には来ないでください」と言われることもあります。もうそのカードは無効です。

うまく訪問日が設定でき、その日の朝電話で伺うことを確認してもアパートに人の気配がなかったりします。ひどいときは部屋に人がいるのに出てくれないこともありました。
「うちではもう、要りませんから。女房が勝手に出した葉書なんですよ」とドアごしに実に無造作に断られてしまいます。

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