4.物忘れも楽しみのうち
悔しいですが物忘れはどきっとするほど多くなりました。
「おひさしぶりですね。お元気ですか」と言われて顔を見てもどこであった人なのか、いつ出会った人なのか、まったく思い出せないときがあります。
会った場所でも思い出せれば何とか話の糸口がつかめるのにそれも思い出せないことがあります。
思い切って「ごめんなさい。お名前を忘れてしまいました。本当にすみません」とひたすら謝り、やっと名前を聞き出したのに名前を聞いても分かりません。(どこでお会いしましたか)と言えないままどんどん話が進みます。
話の途中唐突に「Kさん、お嬢さんはお元気ですか」と尋ねてみたのですが「ええ、元気でやっています」と彼女。仕方がないのでそのまま別れました。 今も彼女の顔をはっきり覚えているので今度どこかで出会ったらどうしようと思ってもいます。
先日、ある友人が遊びに来ました。その人とはこの頃私の長い友達を通じて知り合い、3人でちょくちょくおいしいものを食べに行くようになり、猫の話や英語の話しをするようになったのです。
彼女はいつも「あなたとは10年前に会ったような気がする」と言い続けていました。私は「いや、とんでもない。絶対会っていないわ。そりゃ、何処かですれ違ったりはしているでしょうけど。絶対、会ったことはない」と言い切っていました。
こたつで猫の話に花が咲いていたとき、私は何を思ったのか、10年前にボランティアをしていたころの写真を彼女に見せたくなりました。
ニューヨークで有名歌手と一緒に写真をとったときの自慢の写真でした。たまたま猫の写真を見せようとしてその中に紛れ込んでいたのでした。
それを見て彼女は大きな声で叫びました。「やっぱり、ほらこの顔、あなたのこの顔、見たことある。思い出した。会ってます。あなたと絶対会ってる。ほら、モルモン教の外人の英会話教室で会ってる。一度会ってる」と言いました。そう言われるとほのかに記憶がありました。確かに会っていました。
ああ、ぞっとするではありませんか。
まったく、その時まで絶対会っていない……と自分の記憶を信じきっていたのです。そんな思い込みをすることも今までありませんでした。
私はちょっぴり反省し、恥ずかしい思いを味わったことでした。